研究概要

私たちは,人の心をより深く理解することでお客様とのより良いコミュニケーションを図るために,「価値観研究」を中心にした以下のような研究を行っています.

Ⅰ. 価値観研究
Ⅱ. コミュニケーション研究
Ⅲ. テーマ価値観研究(シニア,美意識,グローバル)

このサイトでは,この3つについて大まかに紹介しておきます.
ご興味のある方は,お気軽にお問い合わせください.

Ⅰ. 価値観研究

(人の行動モデルの基本的なデザイン)

人の行動は同じように見える行動であっても,その行動理由は人によって違います.消費行動も同じで,商材やサービスの刺激を受けた後,直感的な考えから始まり分析的な考えに至るまでのどこで行動が決まるのかわかりません.
以下の図は,ある人の消費行動の態度変容と人の心の動きの関係を示したものです.一般的に,消費行動の態度が進めば進むほど(より購買に近づけば近づくほど)論理的な思考で物事を判断します.始めは,感情や感覚,先天的な嗜好性,情緒的なベネフィットに左右されて好感を持ったり不快感を覚えたりしていたものが,後天的な嗜好性,考え方,機能的なベネフィットへと決定を左右する要因がより論理的になっていきます.人はそのどこかで受容するか拒否するか,行動を決定します.その受容拒否曲線は人によって様々でしょう.

私たちは,価値観や消費行動,認知心理学など過去の様々な研究成果を参考にして,下記に示すように,刺激入力から行動出力までの「心のモデル」を,TASS(いわゆるFAST)と分析的システム(いわゆるSLOW)の二重過程モデルを想定し,価値観構造を生得的なもの(Gene),生得的なものの影響を受けながら,生後に形作られていった性格的なもの(Char),また社会環境,個人の環境などからも影響を受けながら確立していくもの(Meme)の3つに分けて考える新しい価値観フレームを展開しています.

具体的には,以下の図に示すような階層的なモデルになっています.Geneは,「新規性追求(冒険)―損害回避(保守)」「個人主義―協調性」という人の行動の外的側面を表す4つの変数(2つの対軸)を主軸にして,「頑固(固執)―柔軟(こだわらない)」「誘惑に弱い―我慢強い」という人の行動の内的側面を表す4つの変数(2つの対軸)の補助軸から構成されています.60選択肢のマルチプルアンサーの設問項目に答えることで,それぞれの8つの変数に対して2水準(0,1)あるいは4つの対軸の変数に対して3水準(-1,0,1)の確率値が付与されます.Charは,「好奇心」「自己成長」「協調的」「批判的」「自己愛」「繊細」という6つの変数,Memeは,「ストレス」「仕事充実」「家族不仲」「結婚願望」「お金ゆとり」「家族中心」「親友あり」「多忙」という8つの変数から構成されています.Char及びMemeの変数に対しても,Geneを計算する時と同じ60選択肢のマルチプルアンサーの設問項目に答えることで,3水準(-1,0,1)の確率値が付与されます.基本的には,これらの値と事実データ(例えば,消費者の購買情報や書き込みテキストなどの言語データ)との関係性をモデル化することでマーケティング活動に役立てようとしています.

(人の類型と社会知ネットワーク)

価値観を算出するのと同様に人の価値観の類型も用意しています.現在は,価値観軸の12種類の類型を用意していて,その類型のことを「Societas」と呼び,定性的にではありますが,実践的にマーケティング活動に利用しています.そして,いつしか私たちは,価値観フレーム全体のことを「Societas」と呼ぶようになりました.この類型に様々な企業様のマーケティング活動の事例がエピソードのように紐づいています.例えば,「5-1」というクラスは,お金に糸目をつけないセレブな行動をとる人が多いのではないか,「3-1」はTwitterやブログのようなインターネット上の発信の世界で強い影響力を持っているのではないか,「2-2」と「4-1」が突出するタイプはIT企業の役員や救命救急医のような緊迫したストレスを抱える職業の人に多いのではないか,中間管理職には2系統,接客業は6系統が多いのではないか,というように調査データだけでは想像しえなかった知見が紐づいていくのです.
そもそも「Societas」をデザインした時の発想は,マーケティング施策を企画する際のターゲティングやセグメンテーションに,性別・年齢・未既婚・子供ありなし・職業のようなデモグラフィック属性だけでは叶えられないインスピレーションを与える,企業の枠組みを超えた共通のモノサシを作ることで,集合知を構築し社会で情報を共有する,という発想がありました[1][2].行動理由に近いものを知り,さらにそれを拡大して解釈することで,情報が豊かになり,事実データから生成するクリティティブのような領域にも踏み込んでいけるのではないかと考えているわけです.

(弊社の価値観研究の歴史と課題)

上述のデザインにたどり着くまでに数々の試行錯誤を繰り返しています.人の類型を事実データのクラスタリングに期待した試みが起点でした.その期待はすぐに困難であることが判明し,人を定性的に調査するという方法に研究の方向性を180度転換しました.現在でも,過去に行われてきた多くの価値観研究を参考にしながら,定性的なデザインを固めたり崩したりしながら進んでいます.定量的なデータの肉付けにアンケート調査を利用する際も,最初に見えていた価値観軸を取るために1,300以上もの質問項目から,徐々に削減し,現在の60問に落ち着くまで試行錯誤は続きました.価値観変数に関しては,事実データ(購買データや言語データ)との相関関係の確認が終わり,ようやくこの変数で安定したフレームの作成ができるのではないかと考えています.
現在,まずは,質問項目からの推定モデル(価値観変数及びSocietas類型をターゲットにした時の)を頑健で高精度なものにすることに取り組んでいます.それが落ち着いたら,今一度,事実データ(購買データや言語データ)との相関関係の確認をして,購買データを入力すると価値観が有効となる商品モデルを自動的に取り出す仕組み,価値観や類型を推定する仕組みをリリースし(目標は2017年6月),さらにはより強力な新類型の作成を目指したいと考えています(目標は2018年中).
まだ,最新の価値観モデルに関する研究論文はありません.どこかでまとめるつもりではありますが,私たちの取り組みに興味があり,価値観フレームを自社データの活用に利用したい等とお考えの方はお問い合わせください.

価値観研究関連論文:
[1] 谷田 泰郎 他,“Societasと社会知ネットワーク“, ヒューマンインタフェースシンポジウム2013, 2013年9月
[2] 谷田 泰郎,“価値観マーケティングと社会知ネットワーク“, 人工知能学会学会誌 Vol.29 No.5, 2014年9月

Ⅱ. コミュニケーション研究

(目的と趣旨)

人は言葉に始まり言葉に終わる,私たちは,一日のうちの長い時間を,誰かと対話することで過ごしています.いい加減でうまく伝わらないようでありながら,誰もが重要だと知っています.仕事も家庭も恋人や友人との遊びも,あらゆる人間関係はそこに終始します.商材やサービスとの出会いや関係性の維持も同じです.そういう意味で,私たちはコミュニケーションの神秘を現実のものとして解き明かし,それを活用するための研究をしています.この研究は,人の「価値観研究」,人の「心の研究」と切っても切れない深い関係があるのです.
コミュニケーションには,大まかに分けて言語的なものと非言語的なものがあるとよく言われています.私はこの分け方が好きではありません.確かに,先の二重過程モデルの直感に近い部分は非言語的な要素に左右されることが多く,論理的な部分が言語的な要素に支配されることが多いように感じます.然しながら,直感や感情を言語化できないと考えるのは間違いです.言語化できないのではなくて,論理的な文章として言語化できないのです.人は意識に上がれば必ず言語化します.無意識の行動のように見えても,注意を向けずに行動しているだけであって,必ずその行動は言語化できます.コミュニケーションを言語と非言語に分けることは,非言語という神秘的で曖昧な部分を作るだけで,科学にとっても,人の本質を明らかにしていきたい私たちにとっても,何の進展もない,分からないからやらない,難しいからやらないと言っているだけの言い訳のようなものです.たとえいい加減であっても,言語らしからぬメッセージであったとしても,それはまさしく言語なのです.それが私たちの信念です.つまり,私たちは,「人間というものは,経験的にほぼ無意識に処理できるものも含め,少しでも注意を向けるすべてのものに対して言語化しようとする」という前提で研究を進めています.

(価値観と音声言語)

人の言葉には価値観に関する多くのエビデンスがあると考えられます.特に対話の中には計り知れないエビデンスが含まれています.私たちは,音声言語を対象にして個性や価値観との関係性を解き明かすための研究を進めてきました.価値観と言語(テキスト)の関係については,まず,Twitter上の発言と前述の価値観変数との関係を調べました [3][4][5].価値観を言語化することは価値観変数の有効性の確認にとっても重要な意味があります.この言語化によって,価値観変数の有効性が確認されています.この研究はマーケティングリサーチでも活用され(tweetやブログの書き込み等からの商材・サービス・イベントの価値観推定,色と価値観の関係性推定等),現在も改良のための研究は進行中です.
音声に関しては,印象推定の調査と実験をしました[6][7].ただ,現在工学的にリーチできる音響特徴量では人によって多様な感じ方をする感情や価値観との関係をモデル化するのは困難であるという結論に至り,一旦研究を停止しています.一方で,音声対話から個性や価値観を抽出するための試みとして,「読む(見る)」と「聞く」の違い[8][9][10]や実際の音声対話実験データから相手の評価印象を分析する[11][12]という,言語特徴と音声特徴を組み合わせることで得られる知見に関しては地道に蓄積しています.研究企画チームの委託研究において,マーケティングリサーチの標準手法として「対話型定性調査」を採用していることから,その音声対話データを使った個性や価値観との関係性をモデル化するための研究は緩やかなペースで進めていく予定にしています.

テキスト価値観研究関連論文:
[3] 谷田 泰郎 他,“価値観モデルを利用したマイクロブログ発言者の社会的類型の推定“, 言語処理学会第19回年次大会(NLP2013), 2013年3月
[4] 谷田 泰郎 他,“マイクロブログにおける潜在的価値観の推定“, 2013年度人工知能学会全国大会(第27回) JSAI2013, 2013年6月
[5] 谷田 泰郎 他,“Twitter, 何ツィートあれば価値観が分かるのか?“, 第43回 ことば工学研究会, 2013年7月

音声と印象関連研究論文:
[6] 高椋 琴美 他,“音響特徴量と声の印象に関する分析“, 日本音響学会2013年秋季研究発表会, 2013年9月
[7] 高椋 琴美 他,”声の印象評価にみられる評価者の個性の影響“, 日本音響学会2015年春季研究発表会, 2015年3月

「読む」と「聞く」に関する音声言語の研究論文:
[8] 谷田 泰郎 他,“いい加減な対話からの心のモデルの抽出“, 2015年度人工知能学会全国大会 (第29回) , 2015年5月
[9] 高椋 琴美 他, ”「聞く」と「見る」における言語理解の違い ―話者の意図が聞き手の理解に与える影響―“, 日本音響学会2015年秋季研究発表会, 2015年9月
[10] 谷田 泰郎 他,“「見る」と「聞く」の言語理解の観察“, 情報処理学会223回自然言語処理研究発表会, 2015年9月

音声対話と個性・価値観研究論文:
[11] 谷田 泰郎 他, “コミュニケーションにおける記憶と個性の評価“, 2016年度人工知能学会全国大会 (第30回) , 2016年6月
[12] 高椋 琴美 他,“未知の人との電話対話における印象評価分析 ―話題や対話相手ごとの印象評価と音響特徴―“, 日本音響学会2016年秋季研究発表会, 2016年9月

Ⅲ. テーマ価値観研究(シニア,美意識,グローバル)

価値観は,前述のように「お金」「時間」「仕事」「家族」「人間関係」のように抽象度の高いもので説明するアプローチもありますが,例えば,それをあるテーマやキーワードで区切った時に,その変数で適切に説明できるのかというとそうではありません.今ある変数で説明できる商材やサービスを抽出してマーケティングに利用するわけですが,まだまだ人の心や個性,価値観には幅広いテーマが存在しています.
我々は,それを「シニア」や「グローバル」といった視点からも掘り下げようと取り組んでいます.年代世代による価値観の違い,人種による価値観の違いは言うまでもありません.「シニア」と「グローバル」をテーマにした価値観研究としては,「世界価値観データベース」のように過去から調査が行われていてフリーで利用できるデータを「Societas」の価値観変数にマッピングすることで,グローバルとの比較や年代世代別の比較を行うような研究も進めています.また,女性にターゲットを絞った価値観研究として,「美意識」のような価値観を解き明かしていくことが重要であるという発想から,若い世代の女性やシニア世代の女性の価値観調査の対話データを定性的に分析する取り組みを行っています.これらのテーマ価値観研究に関しては,まだ取り組み始めて日が浅いことから外部で報告した論文は,「シニア」と「グローバル」をテーマにした以下の報告しかありませんが,ご興味のある方はお問い合わせください.

[13] 齋藤 有紀子 他,“複数データのマッピングによるシニア価値観分析の試み“, 2016年度人工知能学会全国大会 (第30回) , 2016年6月

(2017年3月19日 記事担当:谷田)