クラッシュ&ビルド


ある小説の一部(名前修正あり)を少し読んでほしい

 A(女性)は微かな寝息を起てていた。Aの寝息なんて聞くのは何カ月ぶりのことだろう、そんなふうに思いながら僕は山麓から真っすぐに伸びている道路を見た。なだらかな坂だった。僕はその坂のことをよく知っていた。この街に住んでいるものなら誰でも知っていた。その坂を夢が転がって行ったのを私を見た、とAのノートにあった。僕はそれを盗み見た。中絶をして失意のまま死んだ友人の墓をAは毎年、参っていた。僕と知り合ってから二度参っていた。夢が転がったのはあの坂のことだろうと僕は思った。その坂は今光を浴びて白っぽい灰色の輝きを見せている。どこまでも緩やかに続いている他よりひときわ太い坂は輝きながら海へ向かっている。その途中に濡れたペニスの先のように揺れて見える巨大なタワーや近代的な彩りのビルディングが立ち並んでいて、海へ向かう道路を阿修羅の手のように取り囲んでいた。坂を転がる夢は少しづつ海へ向かい、やがて飲み込まれてしまうだろうと思うと妙に悲しかった。

 ある男が彼女の寝顔を見ながらぼんやりと思い浮かんだ状況をつぶさに記述している。心の中に往来する自分にとってはすっきりとしている情景、ただ、他人から見ると随分入り組んだ情景。この背景を想像するといろんなコンテキストが浮かんでくる。その背景のコンテキストは現体験者である「僕」にしかわからない。だから、小説家は読み手に伝わるように、また、読み手にある程度の想像力を駆使してコンテキストを推定できるような部分を残しつつ書く。後半部分が重要で、前半だけだと杓子定規な文章が出来上がってしまう。分かり易く伝えることと想像してもらえるような言葉足らずの部分を残すというトレードオフが常に存在している。論理的なもの、XならYでしょ、という直線的な推論を人は嫌う。にも、関わらず、そういった仕事の仕方をする。私にはそれが不思議でならない。XならYでしょ、となっていなければ評価ができないというのであれば、仕事に人は要らない。

今夜は満月だって 僕は言ったのに
うっすら流れる もこもこした雲のじゅうたん、
から、丸い顔をのぞかせていた、
かわいいやつ、と思って目を凝らして見つけたのは
暗闇の中にぼんやり浮かぶ電信柱にはりついた頼りない灯り
それが揺れるたびに薄い灰色のもこもこ雲のじゅうたんが動く
あっ、あ、あー
まん丸顔にぴしゅーって
何かかけたの?今の香水?
ちがうよねーもわもわって
ゆっくり顔中に煙みたいにひろがって。
血色悪いじゃん、
チーク塗らなきゃ・・・

 私の脳裏にクラッシュ&ビルドだよ、とM氏が語りかけてきた。トライ&エラーなんて甘すぎる、クラッシュ&ビルドだよねー

 はい、って私は頷いた。何故って?そう思うから、だいたい、終わりはこんなもんだ。

 振り返ると、最初のブログから4年以上の月日が流れ・・・多くの人がここに来て、去っていった。私と接して去った、ちゃんと言葉を残せないまま去った人もたくさんいる。何人いたんだろう、数えたくなってやめた。そんなことはどうだっていい。ただ、最初に何かが起こったことと、今何かが終わろうとしていることだけは事実だ。今の心境・・・強がりとかではなく、悲しいとか、寂しいとかは思わない。それは、多分、ここに関わっていた多くの人が悲しいとか思わないことを代替して私が感じている。だからこそ終わるのだと思う。恋や男と女の戯言も、人間の情熱の賞味期限は3-4年なのかも知れないな、って。不真面目だ、不謹慎だと思う必要なんかない、そういった役割はいつか終わる、それが今来ただけだ。この枠組の発信から書くことをやめるだけで、書くこと自体はやめられない、けどね。

 私は大きな声に出して言ってみた。

 クラッシュ、アンド、ビルドだよ!

 そうだった、壊す前にお礼言わなきゃ。
 ありがとう。
 クラッシュするけど、次のビルドもあるからね。
 「時代を語るな、想像力を語れ」
 頭が右に回ろうが左に回ろうがそんなことは知らない。
 どっち向きにでも動いたらいいじゃん、コンテキストによるでしょ。
 右が早いか左が早いか、考える前に動けよ。
 目の前にあなたが集めた武器がいっぱいある。
 次の武器を取るんだよ、丸腰じゃやられるよ。
 その時、杓子定規に武器を取らないようにね。
 すっと、自分の感覚のままにナチュラルに。

 これで 本当にグッド・バイ

 少なくとも、わたしはね※
 

※もしかすると、将来的には、複数のいろんな選択肢が開けていて、誰かが推すことで他者と共存できる素敵な空間が開ける可能性があるのです。そういうことを私は期待しています。誰かが変われば何かが変わると信じています。


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