走れ、馬場。


弊社R&Dの今年初の外部発表。先週の金曜日の朝だった。私は焦っていた。170人入るホールの中央の前列から2番目の席に座っていた私にTさんがこちらをちらっと見た後、話し始めた、もう終わったと思いますが発表者の方でまだモニターチェックしていない方はしてくださいね。やばい、時計は9時42分を指していた。あと3分、まだ馬場さんが来ない。まずいよ、何だよ、その声でその事に気付いたと思われるTさんがまたこちらを見て笑っていた。

馬場さんの発表スライドは私のPCにも入っていた。最悪、私が喋るか、そうは思ったものの、想像していなかったハプニングに全くイメージが湧かない。私は立ちあがり、エレベーターホールの前で電話をかけた。その瞬間だった、馬場さんがエレベーターから飛び出してきた、何とかぎりぎり間に合ったようだ、息を激しく切らしていた。

会場では、既にオープニングの挨拶が終わり、馬場さんの登場を待ちかねていた。あぁ、代わりに喋るのかと思って焦った、とぼやいた私の言葉に反応した何人かの知り合いが会場で笑っていた。馬場さんは、はぁはぁ息を切らしながら私以上に焦っていた(当たり前か)。

すみません、ほんとに全力で走ったので、息が切れています、そう言って彼女の話は始まった。近くのスタバで練習してたんですけど、気が付いたら、もう35分過ぎてて、やばいと思って走って来たんで、ほんとに息が切れているんです、その言葉にどっと会場が湧いた。彼女は息苦しそうに時々マイクから顔を反らして横を向いた。笑いで始まった彼女のスピーチは、上手とは言えないがなかなか素晴らしいものだった。練習の成果が出たとは思えないが(笑)。ただ、ハラハラドキドキさせながら、聴衆を巻き込んでいく何かを彼女は持っている、それが多分一番大きな武器だろう。そう言う意味では、ギリギリに走って間に合うと言う状況は演出としては悪くはない(演出ではないところが馬場さんなのだが)。ま、兎にも角にも、共著として急に喋ると言う状況を回避した私はほっとしながらも、少し寂しくもあった。残念。

終わった後、Yさんが馬場さんに言っていた。だいたい3分ぐらいしたら息も収まるかと思って見ていたけど、最後まで収まりませんでしたね。その通り。私も同じことを考えながら見ていた、身体と無意識の情動の低次レベルのループかな、そんな感じだった。喋っている内容はしっかりしていたし、意識上の言語的な感情や認知は乱れていなかった。非常に論理的に話をしていた。にも拘わらず、身体の変調はなかなかループから抜けられなかったようだ。走って起こった動悸と動揺や緊張に伴う動悸が同じもののように無意識の世界で認識され、意識に上がらない低次のループを形成していたように見えた。いいものを見せてもらった。

 

ドタバタだったが、ようやく今年もある意味幕を開けた。ここ数日、自分の着手しているテーマに躓き苦しんでいた。さっき、不意に西尾さんが一月ぐらい前に言っていた言葉を思い出した、多分、ラグビー選手としての例えなのだろう、馬場さんはね、ボールを持たずに走れるんですよ、正確には違うかも知れないが、そう言った意味のことだ。私はボールを探していたような気がする。それで大切なことに気付いた。ボールを持っていない方が邪魔されることなく自由に走れる。ボールは1つしかない。それが今どこかに回っているだけだ。両手を振って広い空間を目がけて走ろう。背中に熱い視線を感じながら走ろう。今、私もまだボールは要らない。

もしボールを受け取ったら、そのまま駆け抜けるか、誰かに渡すかその瞬間に判断すればいいだけだ。今思いついた直感を信じよう。

最後にもうひとこと、走れ、馬場。


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