自ら選べ!


経済学の世界にマッチング理論と言うのがある。よく取り上げられる例に、男女のマッチングがある。男女は、それぞれ、選好リストを持っている。好きな異性の順序リストである。男性から告白しても、女性から告白しても、いつかは安定状態に達することになるのだが、ここで単純でかつ大きな問題がある。社会のルールが男性から告白することになっている場合、社会のルールが女性から告白することになっている場合に比べて、男性は、自分自身が持つ選好リストのより上位の女性とマッチングする。逆に、社会のルールが女性から告白することになっている場合、社会のルールが男性から告白することになっている場合と比べて、女性は、自分自身が持つ選好リストのより上位の男性とマッチングする。このことは数学的に証明されているが、ここでは触れない。要するに、待つよりも、一歩前に出る方が自分にとって都合の良い結果が得られると言うことだ。また、どちらかの選好リストが小さくなるようなことが社会的に起これば、マッチングが安定状態に達するのに時間がかかる。女性が自立し、選好リストが小さくなったために晩婚化が起こると言う説明をした経済学者もいる。非常に単純なモデルだ。

世の中の課題は、もっと複雑なモデルでなければ解けないと言う意見もあるが、私はそう思わない。複雑に見える社会の問題も、しっかりとした根拠をもって、確実な因果関係が特定できれば、意外と単純なモデルで説明できるのではないかと思っている。問題は、複雑だ、できないと考えてしまうこと自体にあるのではないだろうか。確かに、社会で起こる問題は、因果関係を特定しにくい。例えば、ある人が次に取る行動を予測する、あるいは、その人はなぜそのような行動を取ったのか、明確に答えられるのは、その人自身のみだ。いや、その人自身の言うことも怪しい。そう考え始めると頭の中の情報の糸がぐるぐる縺れて、複雑で難解な問題に思えてくる。

我々は、課題を解く時、その課題を分解し、絞り込んでから、ひとつひとつ解いていくと言う知恵を持っている。何らかの仮定や条件を付与することで、それは簡単に実現できる。

その人を消費者と仮定する。その消費者はマーケットである商品と出会う。マーケットにある代替可能な商品をN種類仮定し、消費者は価格情報を持ち、CMによってのみ情報を得ると仮定する。そんないくつかの仮定を置くうちに、消費者行動予測は、消費者と商品の単なるマッチングであることに気付く。実に単純だ。消費者は、選好リストに応じて商品を選ぶ。各条件や仮定は、選好リストを並べ変えるためのパラメータにしか過ぎない。しかし、ここで、また、一つの大きな問題に気付く。消費者は選好リストを持っているが、商品は選好リストを持っていない。そして、消費者は、選好しているようで、そうではない。消費者に与えられた情報は、商品サイドからのものでしかない。実は、この状態では、消費者は「選ばされている」のだ。商品が人を選んでいるのだ。この状態でのマッチングは、商品サイド、すなわち企業サイドに有利に働く。

賢明な読者は、もう、お気づきかと思うが、進化した消費者は、自ら選ぶ道を選択しようとする。その方が自分にとって有利であることに気付いたからだ。消費者の持っている選好リストのパラメータ(選考基準のようなもの)は複雑になり、より厳しくなった。しかし、この状態は、前述したように、安定状態への道のりを遠くする。つまりは、多くの消費者に最短のマッチング安定を示唆できる商品、企業が生き残る。仮に、「生き残る」と言う言葉が正しいとすれば、当初仮定していた「完全競争市場」は、その時点では勝ち残った企業の「独占的競争市場」になっている可能性が高い(なぜなら、「完全競争市場」は利益が無くなるまで企業の参入が起こり、企業は最終的に退場する運命だから)。果たしてそのような予測が可能なのであろうか。

何も恐れることはない。そんなに難しいモデルにはならない。一見、複雑に見える事象でも実は単純なものだ。

ソシエタスから生まれるエージェントがこの問題をすっきりと単純化してくれる。やはり、大きな第一歩だ。


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