お母さん、カラオケ、行こうや



 齋藤さんに聞いた話。

 彼女が休日に陶芸教室に行こうと難波で歩いていると「お母さん、カラオケ、行こうや」と幼児の声が耳に入って来たそうだ。後を振り向くとベビーカーを押すヤンママが。そして、そこには赤ちゃんに毛が生えたような幼児が。いくつぐらいだと思う?そう斎藤さんに聞かれたが、ベビーカー乗っているのだったら、せいぜい2歳ぐらいか。まぁ、確かに3歳ぐらいになればしっかり喋るが。ベビーカーには乗ってないだろ。
 言葉というのは恐ろしい。お母さん、カラオケ、行こうや。名詞句が2つ続いて動詞句が最後にくる、しっかりとした文法で幼児とは思えないような提案を母親にしている。何という提案力だろう。サバイバルにいる子供の言語能力は逞しさと恐ろしさ、いや、奇跡さえ兼ね備えている。

復活。グッバイしたところなのに。未来の軸が変わった気がする。グッド・バイと言った日と明らかに違う未来が見えて来た。ちょっとしたことで未来は変わる。

 金曜日に胡さんを見送った。

 胡さんがすぐに中国に帰るのを知らずに図書カードを送った。使えねぇじゃん。そう思って図書カードの包みを破って中身を現金に差し替えた。粗雑な私の行動に胡さんは困ったような少しうれしいような複雑な表情を浮かべていた。何でもいい、もっと本を読んでほしいだけだ、答えの載っていないやつ。
 ブシ、どっかで読んでるか、おまえの弟子は卒業したよ、今日・・・
 
 数人で最後の飲み会をした。2件目。お姉さんではなく、歌を選んだ。昔、長崎で胡さんとタクシーに乗っているとき、雨が降っていて、長崎はー今日も雨―だぁった♪みたいなことを言ってるとき、ボク、その歌好きなんですよー、って言い始めて、えー。なんか、こんな若い中国からやって来た人がねって印象に残ってて、いつかカラオケでもと思いながら、行ったことがなかった。で、カラオケを選択した。お姉さんはいるけど安くて、全国で一位になるとシャンパン出してくれる店。何度か一緒にいった人たちが一位を出してシャンパン飲んでるけど、まぁシャンパン自体は安もんでまずい(お店の人ゴメンね)。ただ、一位でシャンパン出たら盛り上がるじゃん。私は母数の少なそうなとこ狙ってみたけど一位を出したことなかった。何で、私と行く人、簡単に出しちゃううんだろ、って不思議に思ってた。
 やっぱ、胡さんだよねとトップで歌った彼は、驚くほどの歌唱力だった。職業間違えたんじゃないかって、惚れて聞き入ったわ。今までカラオケ行って聞いた人の中で一番だわ、間違いなく。驚いた。次に桂さんが英語の歌うたって、狙い通りと一位出した。2連発。信じられん、でも、ここまでは何となくありかなと。西尾さん、俺も出してやる、とすごい燃えていてマジで出しちゃった、一位。3連発。何これ、ありえないだろー。その後、私の番だった。川口さん、西尾さん、にやりと笑って次も行きますよーって。ありえないだろ。むちゃ、嫌だった、歌うの。思いっきり開き直って、取りに行くのやめた。そんなの関係ねーって。だって、私の歌、原曲のリズムも音程もほとんど無視だもん、いつも。

 でも、奇跡ってあるんだねー、出ちゃったよ・・・全国一位4連発。その後、川口さん、よく歌った、おしかった、掠ったよね。でも、すごいって思って。めちゃ、楽しかった。

 これが胡さんが最後に残してくれた奇跡の話だ。

karaoken1

 私はその後タクシー乗って奈良まで帰ってもう一軒行って、上機嫌で飲んで雨が土砂降りでタクシー無くて、どーしようと思っていると、送りますよって声かけてくれて自宅まで送ってくれた知り合いの飲み屋のマスターに本とか読むって言いながら図書カードあげた。読みますよっ、って満面の笑顔で嬉しそうにその図書カードもらってくれた。それがその日のもう一つのよかった・・・浮いた図書カードがきれいな心の人に渡って良かった。

 私はもうここで書かないと言ったし、でも、この先のことなんか誰にも分からない。そう、明らかに潮目が変わった気がした。未来が少し変化した気がした。もう、変わろうとしている何かが手の届くところまで来ている気がした。

 お母さん、カラオケ行こうや。


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