UXとは何か、コトとは何か? 『デザインド・リアリティ ―半径300メートルの文化心理学』



デザインド・リアリティ ―半径300メートルの文化心理学

「UX」が、「UI」と何が違うのか、なぜ「UX!!」と注目されているのか、
以前は全くわからなかった。

そんなある日、『デザインド・リアリティ ―半径300メートルの文化心理学』をあらためて読んで、
「ノーマンがこんなところに出てくる」と思いつつ、
そして、「UX」について「ああ、そういうことか」「だから注目されているのか」と、
いろいろなことがつながった気がした。

“デザイン思考”と“データサイエンス”と“パターンランゲージ”と」に、“状況主義は、人間中心設計(HCD)やユーザーエクスペリエンスを語る上で欠かすことのできないドナルド・ノーマンも、“状況論的”とされている”と、『心と脳―認知科学入門』(安西祐一郎著)を参考文献として書いたけれど、この本以前に『デザインド・リアリティ』を読んでいたこと、
特に、単純にシステムの利便性を向上させれば、いいデザインというわけではないという焼肉店の事例のインパクトが大きかった。

この本に関しては、中原淳先生(東京大学准教授)のブログ以上の紹介はないんじゃないかと思うので、まず参照してほしい。
「有元典文×岡部大介著「デザインド・リアリティ」を読んだ!」
ここで、第一の読み方として、“扱っている題材の具体性、そして、その面白さ”と紹介されている内容から、エスノグラフィー入門書としても、おすすめだけれども、
今回の「UXの理解への扉を開いてくれた本」という点では、そこがポイントではない。

ではどこなのかというと、
上記中原先生のブログより拝借すれば、
“新しい心理学のあり方を論じた専門書”
“人間が、いかに人工物を活用し、世界を秩序だったものとしてデザインし、生きているのかを問う、心理学の専門書”
“「状況的学習論のガイド」”というところから、
そして、“身の回りの世界が、誰かが誰かのためにデザインした世界であることを描こう(本著P.12)”というところ。

状況的学習論からデザインへ

本著から引用し具体的に紹介すると、
“私たちの主体性は皮膚の内側だけにはとどまらない広がりをもっている。P.48”
“伝統的な心理学理論は、社会的・文化的な状況から独立した行為主体を記述しようとしてきた。一方で私たちの日常的な実践は社会文化のいろいろな要素と分かつことができない。この理論と実践の乖離のおかげで、これまで示したような行為の社会文化的な成り立ちがくっきりと際立って見えてきたといえる。P.49”
という状況的学習論から始まり、

その上で、
“私たちはこうした自分たちの活動のための環境の改変を、人間の何よりの特徴だと考える。そしてこうした環境の加工を、デザインという言葉で表そうと思う。デザインすることはまわりの世界を「人工物化」することだと言いかえてみたい。自然を人工物化したり、そうした人工物を再人工物したりということを、私たちは繰り返してきたのだ。P.169”
そして、ノーマンを引用しつつ、“人工物の開発で世界を人間にとって取扱いやすくデザインするということは、何かの行為を便利にするというだけの話ではすまない。それは課題の見えを構成し、私たちの主体性を構成し、つまり衝動をデザインしているとも考えられる。pp.207-208”
と、デザインへと続いていく。
その展開を読んでいった時、
「UXデザインというのは、認知主義的ではなく、状況論的にデザインを考えることか!」「それはものすごく重要だ!!」と、私の中で様々なことがつながった。

それ以来ずっと、「UXって何?」と問われると、どうしても、この本のこの内容を振り返ってしまう。

UXデザイン、経験デザイン、コトづくり

ところで、「コト」。
「コトづくり」の定義(『情報通信白書』)などを読んでも、
「コト」とは「経験」と考えても、問題ないだろうか。

また、相互作用を「コト」ともされているが[1]、
“状況的学習論や活動理論では、私たちの主体性や自律性を、社会や文化の諸要素との相互作用のあらわれとして記述する流儀を採用するP.206”
ということをあわせて考えてみると、
「経験デザイン」「コトづくり」は、主体性や自律性をデザインすることになり・・・
やはり、教育・学習だとか、デザイン・マーケティングだとか、その境界線は、私には見えない。

“UXは、ブランド経験や消費者経験や顧客経験と同義ではない”[2]とされているようだけれど、
細かい議論はさておき「認知主義的ではなく、状況論的にデザインを考える」で(ざっくり)いいんじゃないかと思う。

<余談>
本著は、途中、ゲシュタルト、ヴィゴツキー、マルクス、
“道具という文化歴史的な人工物を、人間の活動と分かつことのできないものP.71”を基本的な前提とするエンゲストロームの活動理論、
“モノはその物理的なたたずまいの中に、モノ自身の扱い方の情報を含んでいる”というアフォーダンスの考え方(ギブソン)、
をふまえて説明されていくので、流れとしてもわかりやすく、
また、スピノザについてもあることから、『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』(アントニオ・R・ダマシオ著)などと、あわせて読むのもオススメ。

[1] 『サービス工学の技術 ビッグデータの活用と実践』本村陽一ら,東京電機大学出版局,2012.
[2] HCD白書


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